
楽しそうに次々と小滝を登るハリー氏【丹沢・大滝沢マスキ嵐沢遡行~権現山からの左岸尾根下降】
この世には、デート沢なる呼称を持つ沢がある。そのひとつが、丹沢のマスキ嵐沢だ。丹沢の沢とひとくちに言っても、じつは東と西とではずいぶんと性質を異にする。
マスキ嵐沢が清流を迸らせるのは、西丹沢。東丹沢が石灰岩系だとすれば、西丹沢のマスキ嵐沢は花崗岩と石英閃緑岩の沢。白いスラブやナメの上を滑るように流れる清流の美しさは格別だ。
実は、この付近だと、ずいぶん前に別の山岳会に所属する友人と隣の鬼石沢を登ったのみ。マスキ嵐沢は今回はじめての沢だった。登ってみて思ったのは、もっと早く来ていればよかった、ということ。高校時代から知ってはいたのに、これまでまったく興味がわかなかった。実に「ちっくしょ~」な気持ちだった。
ところで、デート沢についてだけれど。
これまでなかなか興味がわかなかった最大の理由が、マスキ嵐沢がデート沢の呼称を持って紹介されるのを何度か目にしていたからだった。
デート沢なんて呼ばれるようじゃ、とてもじゃないけど登攀するような楽しみは望めないだろうな、なんて思い込んでいた。女の子とふたりで、じゃれあいながらナメを歩くんだろうな~。丹沢のナメなら、奥飛騨の沢上谷のような極上度は望めないだろうな~・・・なんて思っていた。
ところが今回入ってみて、これまでの想像がすべて霧消してしまった。登攀要素もしっかりあって、ロープを持参すれば、最後の10m、ハング気味の滝他で、登って降りて、登って降りて・・・何度も楽しむことができる。
さて、8月の末にマスキ嵐沢に入るきっかけになったのが天気だった。その日、谷川の岩場を予定していたものの、天気が悪く中止を決定。雨でもリスクの少ない沢がどこかにないものかと探していて行き着いたのがここ、マスキ嵐沢だった。
今にも雨が降りそうな曇天の朝7時に、西丹沢の大滝沢沿いの駐車場でハリー氏と落ち合った。コーヒー飲みながら朝食を済ませてスタート。今回はザイルもギア類もなし。ザックには行動食とストーブ、水、ファーストエイドキット程度しか入れていないので、ものすごく身軽だった。そして、足はいつものアクアステルス・ウォーターテニー。ヌメリがあろうが、滑るきっかけさえ会得してしまえば、これほど快適な沢シューズはないと思う。もうフェルトには戻れない。

大滝沢の碧い水を眼下に眺めながら登山道を進むと、30分ほどで「マスキ嵐沢」と書かれた入渓地点に出る。ここで沢装備を整えて、沢へ。

しばらく遡行すると、小さなナメとスラブが次々とあらわれる。時おりミニゴルジュも出てくるなど変化もあって飽きることはない。


スラブには、場所によって茶色のヌメリがあるけれど、滑らないよう足を置く感覚にさえ慣れてしまえば怖くない。

ボクが腰にぶら下げているのは、ヌメリ対策の亀の子たわし(^^;

ホールドが乏しい8メートル滝2段7メートル、スラブ状でホールドが細かい2段10メートル・・・どうしてどうして、しっかりと適度なクライミングも楽しませてくれるではないか。わりと高度感もしっかり味わえる。しかしカンタンだとは言っても、スリップのリスクはゼロではない。
8メートル、10メートルなんて、ビルなら3階以上に相当するのだから、ただでは済まないことは誰だってわかる。


あまりにも面白いので、ボクらは休憩するのも忘れ、標高830メートル地点を越えて終盤の二俣まで来てしまった。そこで我に返ったボクらは「もっとゆっくり、じっくりと楽しまないともったいないよね」と、休憩をすることにした。
夏の終わりのこのとき、谷筋いっぱいに清流の音、谷を吹き抜ける風の音、蝉の鳴き声が充満していた。しばし無言で、その響きに身をゆだねていると、いつしか重く垂れこめていた雲が割れ、谷に差し込んだ日差しが木々の葉を通してあたり一帯を緑に染めた。
マスキ嵐って、いい沢だよね。とハリー氏。
うん、そう思う。とボク。


5メートルの涸滝を過ぎ、最後のハングした10メートルを直登すると、あとは詰めになる。通常は沢筋を詰めて稜線に上がり、そこからバリエーションルートで畦ヶ丸方面に向かい、1079メートルのピークの手前から入渓地点に向かう尾根を下降する。

権現山からの尾根に詰め上げるしかし、地形図を見ると、反対方向の権現山から伸びる尾根が、分岐を間違いなくこなしていけば駐車場の真上まで最短で出られることに気付いた。そこで、沢筋を稜線まで詰め上げるのを中止し、右側の適当な谷筋を詰めて、権現山からの尾根のひとつに向かうことにした。
枯れ葉や腐葉土、崩落した泥でグズグズの涸れ沢は、常に足が滑るので、一歩登ろうとするとズルズル滑り、結局二歩で一歩分になってしまう。手掛かりもないので、獣のように両手両足の四本をフル活用してハアハア息を荒げながら詰めあげる。ところどころに獣の足跡が伸びているだけで踏み跡は皆無だった。時折足を休めてあたりを見回すと、豊かなブナの森が一面に広がっている。これこそ原初の丹沢の姿だ。頭上を覆う、ブナの葉が心なしか明るくなった。

マスキ嵐沢の左岸の尾根を下降する尾根を分岐の選択に注意しながらどんどんと下降する。すると、沢の終了地点からわずか1時間足らずで、車を止めた場所の数メートル先の斜面に出た。まさにドンピシャ。定番下降ルートが2時間だから、半分の時間で降りてきたことになる。

その時だった。空がどんどん明るくなり、このエリアだけが完全な晴天になった。車を止めた横には大滝沢が碧い水を流している。ボクらは、このまま帰るのがもったいなくなり、テーブルとイスを出し、沢カフェをオープンさせた。もちろんドリップ。苦味の中に甘い香り漂うスマトラのフレンチローストをドリップし、大滝沢の碧い水を眺めながらの贅沢なひとときを楽しんだ。
【マスキ嵐沢 コースタイム】
07:00 大滝沢 駐車スペース着(朝食/準備)
08:00 スタート
08:30 マスキ嵐沢入渓
09:45 10m 最後の滝
10:20 権現山からの尾根に出る
11:20 駐車スペース
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