
やっぱり夏は沢登りにつきる。
うだるような夏の一日、白いゴルジュにキラキラ飛沫をあげる碧い水と、戯れ遊ぶ。
あ~、なんて贅沢なんだろう。
梅雨が明けて2週間目。前の記事の繰り返しになってしまうけれど、山用語で梅雨明け後の2週間は天気が安定することから「梅雨明け十日」と呼ぶ。このときの週末は天気の安定期間最後の土・日だった。
黒部の源流を稜線まで詰めあがり、三俣の山小屋で一夜を過ごせたなら、きっと幸せだろうな・・・なんてことを想像するものの、自由になるのは土曜日のみ。夏の山の香りがぷんぷんするマーラーの5番を聴きながら、あれこれ考えた結果、決めたのは西丹沢の玄倉川・小川谷廊下。
石灰岩が多い丹沢にあって、白い花崗岩のゴルジュに碧き清流が流れる丹沢一の美渓。唯一懸念されることは、あまりにも美しすぎるために多くの登山者が入渓する、ということただひとつ・・・
晴天を予感させる土曜日の朝6時。
玄倉林道が小川谷と出会う立間大橋の少し先の、林道わきのスペースで山仲間のハリー氏と合流。身支度をすませると、刻々と眩しくなる青空の下、立間大橋からこれから辿る小川谷の方を眺めにんまり。夏休みの早朝、カブトムシを探しに雑木林に向かう子供のころのように、ワクワク、ドキドキして仕方がない。
以前、
夏は沢登りで僕らはトムソーヤになる、という記事を書いたけれど、いっぽ歩くごとに大人の殻が脱げて、15分も林道を歩くころには、ボクら2人は、すっかりトムソーヤになってしまっていた。

いちばん楽にアプローチできるヤヒチ沢近くの入渓地点さて、小川谷本流に降りるのは、立間大橋から15分ほど歩いた場所にある、この「西丹沢県民の森」の道標脇から。ここからだとすぐに小川谷の遡行開始地点まで簡単に合流できる。ずっと先の「穴ノ平橋」手前から降りると、いくつもの堰堤を、錆びた危なっかしいハシゴで降りねばならず、危ないし面倒なことこのうえない。

左に立つのがユウしばらく小滝を越えつつ進み、ようやく沢らしくなったと思う頃出てくるのが、まるでインディージョーンズを襲った大岩が渓に挟まってできた滝。右側は通過渋滞ができているので、左の水流をつっぱりで越えた。

F1 5mCSの左側の水流を登るハリー氏前方に目を凝らすと、カラフルなヘルメットがたくさん見えるし、ロープ操作のタイミングを知らせるホイッスルの音が複数聞こえる。これは、かなりの数のパーティが入渓しているに違いない。

次のF2 6mの滝でも登り待ちができていた。なかなか進まないので、水流のすぐ左側のスラブを登って、先に行かせてもらう。

クライミング中の先行パーティ上はF3 2段7mの滝。ここも前のパーティがロープを出してクライミング中。10分ほど待たされる。ここで、ふと足元の岩を見ると、なんとヤマビル(下写真)を発見した。丸々と太っているところをみると、すでに誰かの血を吸い終わったに違いない。小川谷にもヒルがいるとは良く言われているけれど、ここでヒルを見たのは初めてだった。

吸血して丸々としたヒルヒルを発見したF3の滝もロープなしで、あえて水を浴びながら滝の落ち口に登った。もう全身ずぶ濡れになって、楽しいのなんの。ハリー氏も同じように水流中を上がってきた。

ゴルジュ入口の滝を残置スリングを利用して右壁を登るハリー氏上のスラブ状のゴルジュ、最初の6mの滝は左岸に下がっている残置スリングを利用してバランスクライミングで滝の落ち口へ。そのまま廊下状の渓をザバザバ水と戯れながら奥へ奥へと入ってゆく。このあたりから、美しさがますます際立ってくるのだからたまらない。

大岩をゴボウで登るユウそしていよいよ小川谷廊下のハイライト。石棚のゴルジュだ。

滝を登攀中の先行パーティここでもロープを出して慎重にクライミングしている先行パーティが登り終わるのを5分ほど待つ。ボクらは待っている間に、ヒルがいやしないかとキョロキョロと周囲を探るが、問題なし。先ほど抜かした後続パーティの気配がしはじめる頃、ようやく先行パーティが登り終えた。

石棚のゴルジュの滝を登るユウ特にロープは無くてもいいと判断し、左岸(右側)から壁に取り付く。途中まで右壁を登り、傾斜が垂直近くになる中間部で滝の落ち口ギリギリに寄って、あえて水流中を登り滝上に抜けた。ハリー氏もボクと同じルートで登ってきた。

石棚のゴルジュを登るハリー氏ゴルジュを抜けると石棚の滝となる。
ここは滝の左側のリッジ状のような岩を20mほど登り、滝の落ち口にトラバースして降りる。滝横の巻きルートには、何組もの先行パーティの渋滞ができている。前のパーティはしっかりとロープを出し、残置ハーケンでランニングビレーをとって登っていた。

石棚を登り、テラスに出ると、そこに滑らかに流れるトイ状の滝をハリー氏が歓声をあげながら滑り降りた。ボクも思わずまねをして、ザバーン!。他のパーティはボクらを見て笑いながら通りすぎていった。滑り降りたら、もちろん登ることになる。しっかりと手足を突っ張って登るのも、実に楽しいのなんの。

すべり台を楽しむハリー氏そして、いよいよラストの8m滝。この滝を登ればフィニッシュとなるのだが、先行パーティが登るのを2パーティが待っていた。

ロープを伸ばし右壁を登る先行パーティトップが壁の途中で次の一手がなかなか見つからないのか、逡巡しており、動きが止まってしまっていた。10分ほどかけてようやく上に抜けたものの、後続ビレイのための支点工作に時間がかかり、タイブロックで登ろうとしている中間者(ミッテルマン)のクライミングもまだ始まりそうになかった。
そうこうしているうちに、先ほど抜かしてきた3パーティもやってきた。大渋滞だった。先に待っていた2番目のパーティ6名が巻き道で上に抜けてしまった。

セカンドビレイする先行パーティのトップ。右で腕組みして眺めるユウボクとハリー氏は、上部が使用されていない左の水流中をステミングでクライミングすることにした。右壁で頑張っているパーティのリーダーに一声かけて、ハリー氏が左の滝に取り付き、水を浴びながら上に抜けた。水流中で支点もないかわりに、落ちても深い滝壺で問題ないためロープなしでフリーで登った。


いくつかの滝を越えて水もなくなり、日当たりの良い河原に出たところで、大休憩。

行動食を食べていると、最後の滝でいっしょになったパーティが通り過ぎる際に、「あそこをフリーで突破するなんてすごいですね!」と声をかけてきた。ハリー氏は、「いやいや、そんなことないです」とそっけない返事。彼の本性は無愛想なのか?とふと思った。
この先で左の尾根に入り、途中の踏み跡をたどり、西丹沢県民の森の道標のあるヤヒチ沢地点の林道まで約45分ほど。強い日差しが照りつける林道歩きで、涼しくなった体が、再び汗だくになってしまった。
仕方がないので、木陰で沢装備をすべて外し、上半身もTシャツ1枚に着替える。さらりとした体に、山風が気持ちよかった。この夏、あと何本、沢を登れるのだろう。
【小川谷廊下】
09:00 立間大橋スタート
09:30 小川谷本流
10:30 大岩(CS)
12:00 最後の8m滝
※大休憩
13:10 東沢出合
14:00 立間大橋
<関連記事>
■笛吹川・東沢本流ホラの貝ゴルジュ■丹沢・モミソ沢と、ヤマビル■ヤマビル 湿地に蠢(うごめ)く恐怖■(沢登り)奥飛騨 高原川・沢上谷■巻機山 米子沢の天国に続くナメ滝■夏は沢登りで僕らはトムソーヤになる■奥秩父・竜喰谷■奥多摩 川苔谷 逆川 2010沢初め■沢登りの夏
にほんブログ村
- 関連記事
-
テーマ:登山 - ジャンル:趣味・実用