
【逸品CLUB】
画像はiPhone 4sで撮影あれ?優しい履き心地だなぁ・・・ヨーロッパアルプスの山岳ガイド達が愛用することで知られるイタリアの登山靴「FITWELL」に足を入れた時の最初の感想だった。
まるで柔らかな掌に優しく、それでいてしっかりと包まれたような感触。今まで何十足と履いてきたどの登山靴とも全く違っていた。まさに異次元の心地よさ。
いや、まてよ、とふと思った。FITWELLの足入れ感は、高校1年の時から愛用していたノルディカの皮革登山靴にどことなく似ていた。当時、山から帰るたびに保革オイルを指で温めながら塗り込み、大切に手入れを続けた。毎週のように山に出かけ1年後、ノルディカの登山靴はボクの足の分身となっていた。足の形に皮革が伸び、何度も塗り込んだ保革油が硬かった皮革をしなやかに変身させ、あめ色に光っていた。
ノルディカはあまりにもしなやかになりすぎたため、アイゼンバンドで締め付ける冬山には適さなくなってしまったけれど、それでも10年に渡って山の相棒であり続けた。そして、このFITWELLの登山靴は、1年がかりで育て上げた登山靴のような、最高の履き心地を、最初から持っていたのだ・・・
登山靴の名称はFITWELL(フィットウェル)のBIG WALL ROCK。
FITWELLはイタリアのメーカーで、完全なるイタリア製ということにこだわり続け100%自社工場で生産するコアなブランド。本場ヨーロッパアルプスの山岳プロガイドやレスキューたちに大きな信頼を寄せられ愛用されており、イタリアの「モンチュラ」が推奨するほどの玄人好みの登山靴をつくっている。

丁寧なハンドメイドにこだわるがゆえに大量生産ができず、イタリア国外に出荷されたのは2012年からという、まさに希少で宝物のような登山靴。存在は知ってはいたが、しかしその奇抜なデザインで、わざわざ探してまで手に入れることはないだろうな・・・と思っていた。
ところがある日、この憧れのFITWELLと偶然に出会うことになる。
雪山に登るために、愛用していた冬山用のアルパイン登山靴(ケイランド)よりも多少ライトなモデルが欲しくなり、1月下旬の冬晴れの週末、神保町に向かった。
条件は、冬山用としてセミワンタッチアイゼンが履けることと、無積雪時に岩稜も気持ちよく歩ける軽めの靴。つまり、アイゼン用に靴底にはシャンクが入っていて、ハイカットでありながら足首の柔軟さは確保されている。さらには皮革製であり、もっと欲を言えばゴアのような浸湿性素材が要所に使用され快適性と軽量化が図られている靴、という欲張ったものだった。
土曜日の朝イチでお目当ての登山用品店を4か所ほどまわる。が、気になる靴は2~3あるものの、これは・・・というようなモデルがなかった。時刻はすでに昼。雲ひとつない真っ青な空がまぶしかった。疲れたし腹も減ったし、しかたなく神保町あたりで山の古本でも買って、キッチンカロリーでランチしたあと喫茶穂高でコーヒーを飲むことにした。秋葉原から神保町に戻る道すがらニコライ堂を眺めたりしながら適当に細い路地をぶらぶら。そんな時のこと。
裏路地の一角に“閉店セール”という張り紙があり、聞いたこともないその店の中を見てみるとどうやら登山用品店らしい。そのまま2、3歩通り過ぎた後でちょっと気になり、ピッケルの石突プロテクターでも買おうかな、と店に入った。
すぐ右側に登山靴コーナーがあった。種類はさほど多くなく、重登山靴のコーナーをぶらぶらしていると、ふと異質な登山靴が目に入った。「まさか!?」と思わずそれを手にすると、それはあのFITWELLだった。

コバを見ると、セミワンタッチアイゼンが装着できる。予想通りシャンク入りの靴底は硬い。ビブラムMulazソールはターンインが弱めではあるが、その粘度のある質感とフラットなつま先の形状がアルパインを主張。クライミングで本領を発揮できることを予感させてくれた。それに、絶対条件であるソールの交換が可能だし、ウレタンコーティングされた皮革の先進的なアッパー、おまけに軽い。さらにはライニングにプリマロフトとeventを使用することで、類を見ないほどの保温性、防水性、透湿性を実現している。

問題はデザインだった。黒に白い線画の装飾が施されていて、それがめちゃくちゃ派手。履いてみたかったが、その派手さに躊躇していると、ショップのスタッフが背後から「この靴いいですよ」とボクの背中をひと押し。しばらく彼と山談義に花を咲かせた後、アルパイン中心に登山をする彼が、穂高の岩稜から剣岳まで、縦走からアルパインまでとても快適だと太鼓判を押してくれた。実のところ、彼自身もFITWELLのユーザーであり、使用感が実際に聞けたのはラッキーでもあった。
さっそくためし履き。驚いたのはその足入れの良さ。足首内側部分には最上のカーフを使用しているため、極上の柔らかさで優しく足を包み込んでくる。思わずボクは「これ、気持ちいいなぁ」と言ってしまった。まったく当たるところがないばかりか、1年以上履きこんだ皮革製登山靴のような、足の形状にぴったりとマッチしたフィット感なのだ。アッパーをウレタンコーティングすることで柔らかな足当たりの良い皮革の使用を可能にした、ということなのだろうか。とにかく素晴らしい。登山靴であっても、やはり靴はハンドメイドのイタリア製に限る、ということなのだろう。履き心地は登山を左右する重要な機能だ。アルプスの多くのプロガイドや山岳レスキューたちがこの靴を選ぶ気持ちがわかったような気がした。

30分ほどいろいろと試し、結局それを購入。改装のための閉店セールとのことで、20%ほど安く購入できた。思いがけず、噂には聞いていたFITWELLを偶然にも、お得に手に入れることができたのだ。なんだか嬉しくて、喫茶穂高に寄るのも忘れて、そのまま半蔵門線で帰宅した。
翌日、そそくさと降雪のあった積雪の丹沢・塔ノ岳に向かった。アイゼンは大げさなので、6本爪の軽アイゼンをザックに忍ばせた。麓の駐車場で身支度をし、FITWELLを履いた。大倉尾根をぐいぐいとハイスピードで登る。足にぴったりとフィットした靴は快適で、実に気持ちいい。初履きの登山靴で、こんなに快適だったのは初めてのことだった。

山頂が近づくと雪が増え、登山道は凍結。それでも登りのためアイゼンも必要なく山頂へ。青空に真っ白い富士山がそびえ、南を見れば相模湾がまぶしい。山頂標では富士山をバックに多くの登山者が刺すように痛い冬風に震えながら笑顔で記念撮影。ボクはその光景を眺めながら風を避けて、アツアツのスープにおにぎりを頬ばる。ストーブは
プリムスのETA EXPRESS。ジェットボイルよりも若干早く沸騰するので、こんな寒い日には非常に重宝する。


腹ごしらえしながら、そそくさと軽アイゼンを装着。FITWELLはアイゼンのバンドをしっかり締めこんでも、足をまったく締め付けることなくガッチリとホールドする。しなやかな柔軟性と、がっちりとした強靭さをいいバランスで両立させるFITWELLに、これならもっと標高を上げても凍傷にはならないだろうとひと安心。

下山は、速度をあげて飛ぶように下り、途中でアイゼンを外し、さらに速度アップ。花立山荘あたりまで休まずいろいろな角度から力をかけて下ってみたけれど、足先までしっかりとフィットするその気持ちよさは相変わらず。まったく疲れも感じさせなかった。おまけにゴアより優れていると言われるeVentの浸湿性能パワーで足蒸れもまったくなし。半日履き続けて行動したのに足はサラサラ快適だった。
気持ちいいし、さらさらだし、岩にも吸い付くし。これはほんとうに病み付きになる履き心地だ。保温材プリマロフトを使用しているのでどうかと思うけれど、このまま夏山でも履き続けたくなった(夏用にもう一足、という選択がいちばんいいのかもしれないけれど、懐だけは年がら年中厳冬期なので・・・)。雨の多い夏場に使うと痛んでしまうが、eVentも本領発揮できるし。一般縦走はもちろん、穂高などの岩稜ルートやクラシックルートの登攀で威力を発揮するだろうこの靴を冬だけのものにしておくのはもったいない。
とにかく、北アなど岩場の多い山に行くのであれば、岩に吸い付くようなソールと相まって、FITWELLは掛け値なしにオススメだ。ボクは通年用にFITWELLを愛用するつもりだ。
■重さ:26.5cm 700g(片足)
■ソール:ビブラムMulazソール
■ワンタッチアイゼン対応(シャンク入りソール)
■ソール張り替え可能
■ライニング:防水透湿性素材「eVent」使用
■足首:インナー:カーフ使用
■保温材:PrimaLoft
【FITWELL】
1979年に靴製造のメッカ、イタリア北部モンテベルーナで、ジュリアーノ・グロット氏によって創立される。登山靴専門工房として、エンドユーザーに対する品質とサービスを維持するためにイタリア・自社工房でのハンドメイドにこだわり続ける。地元ヨーロッパアルプスのプロガイドやレスキューに絶大な支持を受け愛用されるほか、これまでにヒマラヤ8,000m峰・遠征に使用される製品も数多く手がける。
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