
南アルプスはとっても思い出深い山域だ。
高校時代の学食のおじさんは、なぜか山岳部員だけに食券をたくさんくれた。高校時代といえば食欲も旺盛で、午前中に早弁し、昼にもしっかりと食べ、午後部活の後にも食べたくなる、という餓鬼状態。そんな餓鬼であったボクにとって、食堂のおじさんが山岳部の部室に遊びにくるたびに食券を束でくれるのを喜んでもらっていた。
これのおかげで午前中にかけうどん、お昼に天ぷらそば、午後はたまごご飯、なんていった調子で学校で少なくても3食は食べていた。ある日、なぜ食堂のおじさんが山岳部の新人にだけ食券をくれるのかが不思議になって、1年の夏合宿前にとうとう先輩に聞いてみた。
「今まで不思議に思わなかった、というほうが不思議なくらいだよ」
先輩はそう呆れ顔で言うと、おじさんの正体を明かしてくれた。なんとおじさんは南アルプスの「広河原小屋」のご主人だったのだ。どういう経緯か知らないけれど、学校はおじさんに学食の経営を依頼していたのだ。単なる山好きなおじさんなどではなかった。
それ以来、毎週のように入っていた丹沢にときどき南アルプスが加わるようになった。土曜日も授業があったので山行形態は「夜行日帰り」あるいは「日曜早朝・日帰り」のどちらかだった。毎週、月例山行の無い週は雨だろうが雪だろうが必ず山に入っていた。
そんな中の大好きなコースが、南アルプスの日帰り滝めぐりコース。
JR韮崎駅から山梨中央交通バスで「青木鉱泉」まで。そして「青木鉱泉」――「鳳凰小屋」――「地蔵岳」――「薬師岳」――「青木鉱泉」というルートをとる。青木鉱泉からのピストンではなく、最初はドンドコ沢の沢道を鳳凰小屋まで詰め、そこから稜線歩きとなり、南に回って尾根を青木鉱泉まで下る、というものすごく変化に富んだ楽しいルートだ。
ドンドコ沢コースは谷筋の森のトレイルながらところどころ急な登りがあるが、歩きやすい。鳳凰小屋までのこのトレイル上には大きく見事な滝がいくつもあって、楽しむことができる贅沢さ。下から「南精進の滝」「鳳凰の滝」「白糸の滝」「五色の滝」がある。

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地形図には鳳凰の滝の記載はないけれど、
南精進の滝の上流に出現するこれらの滝が、疲れたなぁとダレてくる頃になると、ドカンと姿を見せてくれるのだから堪らない。滝に圧倒されながら登っているとやがて鳳凰小屋に到着してしまう。ここまで3時間半の行程。
さて小屋をやり過ごして地蔵岳に向かって砂礫の登りで高度をかせぐ。地蔵岳のオベリスクにはホールド・スタンスも充分あるし残置のロープまであるのでひと登りすると気持ちいい。ここから賽の河原を経由して観音岳の岩畳を踏み、北岳や間ノ岳の勇姿を眺めながら薬師岳を経由して、あとは青木鉱泉へと1600メートルいっきに下ってフィニッシュ。
全体の行程は9時間ほど。ただし人によってかなり差が出るので、これはあくまでも目安ということで。時間に余裕があれば、滝を楽しんだその日は鳳凰小屋で一泊。翌日は稜線を南アルプスの主峰を堪能しながら青木鉱泉をへ、というのも贅沢。
秋のドンドコ沢は、食堂のおじさんに教えてもらった、ボクにとっては思いで深いステキなコースです。
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テーマ:登山 - ジャンル:趣味・実用
今は学食のパン屋の親父と生協の生産者組合でいっしょです。