いつも仲間と山やカヌーにばかり興じているので、久しぶりに奥さんと“ふたりキャンプ”を楽しみに新潟方面へと向かった。
夏は新潟の小出島でちょっとした用事があるため、毎年必ず新潟入りして、苗場山や荒沢岳などに登っている。昨年は苗場山で映像撮影があったためマイペースで楽しめず今年こそはとの思いがあったのだが、なんとまあ台風がやってきてしまった。しかし用事があるため中止するわけにも行かず、台風仕様の装備をチョイスした。
テントは3年前の台風直撃時に、わざわざ誰一人いない道志のキャンプ場で管理人さんに怪訝に思われながらテストして確かめたHEX3。タープは台風への耐性は未知数だけれど、毎度の海風にも耐えているMSRのビスタウィングを選んだ。最悪の場合は山同様に、山岳テントではないけれどHEX3の中で調理すればいい。
新潟・小出での用事を済ませて向かった先は、江戸の文人・鈴木牧之が“北越雪譜”で紹介した秋山郷の“のよさの里”にあるキャンプ場。ここは24時間入れる露天風呂があるばかりか、苗場山の三合目までわずかの距離のため、登山基地としては最高の環境だ。
「のよさの里」の露天風呂からは鳥甲山が真正面に望める苗場山に登った11日は雨風が断続的に続き、時折強い風が吹くやや荒れた天気だった。そして翌日の12日はカヤノ平へ向かうか迷ったが、野沢温泉経由で毛無山山頂近くの日本離れした美しさを持つスタカ湖キャンプ場へ。野沢温泉には無料で入浴できる13もの共同浴場があって、それぞれ泉質が異なっている。全てを制覇したかったが、結局二日間で5つ。
毛無山の中腹には自生のヤナギランが満開さて、スタカ湖でチェックイン手続きしようとすると「今日キャンプですか」と。聞くところによれば、今夜台風が通過するということで、今朝ほとんどのキャンパーが撤収したのだとか。そんな世間話をしている間にも、だんだんと雨脚が強まってきたので、不安顔の奥さんを尻目にサイトへ。景観よりも風雨を遮断してくれる地形の中から、いちばん快適だろうと思われる場所にテントを設営した。
巣鷹湖の対面よりキャンプ場を望むこの日は早めに夕食を済ませると、真横から叩きつけるような雨にたまらず、テントに批難。夜半からさらに風雨は激しくなり、HEX3のとんがり部分の換気窓から雨のしぶきがテント内を容赦なく襲う。大粒の雨がほぼ真横から叩きつけるので、その飛沫がテント内を濡らした。さらにシリコンコーティングしたUL系のナイロン素材「シルナイロン」を使用したHEX3は、その素材の特性上、暴風雨では縫い目から水しぶきが入るらしく、いずれシルネットなどでシーム処理しようと決意。
さて、恐竜の咆哮のような風音が、右から左へ、左から右へと見事に移動するので、何秒後にどこから叩きつけるのかが手に取るようにわかる。バカン、というけたたましい音がした。外を見るとバイヤーのチェアとローテーブルが飛ばされていたため、チェアを車に撤収。
ちっぽけなテントで暴風雨を体験すると、日常ではとうに忘れてしまった自然界の猛威という、いわゆる非日常を味わうことになる。この断続的な音がまた狂気をかきたてる。マタギが山中で野宿する際には、できるだけ沢音が聞こえない場所を選ぶ、という話を聞いたことがあった。これは水害の危険性を避けるだけでなく、断続的な音が人にもたらす狂気からの保身ではないかと思う。
ずいぶん前のこと。ビバークで沢音を聴き続けていた時、沢の音が突然女の歌声や大勢の笑い声、赤ん坊の泣き声になったことがあった(もちろん増水時に備えエスケープルートを設定し、避難用のロープをあらかじめフィックス済)。これは、ものすごくゾッとする体験だ。そういえばドイツのローレライの歌声も船乗りを狂わせるとされているが、同じことなのではないのだろうか。他にも、風が吹き付ける砂漠を行くキャラバン隊が鈴を付けるのは悪魔の声から身を守るためだと、これも何かの本に書かれていた。
狂気と言えば、かなり前に「台風クラブ」という奇妙な映画もあった。三浦友和、工藤夕貴の狂気をまとったような演技が光る、若さ故の純粋さと狂気が渦巻く映画だった。夜のプールに泳ぎに行った5人の女の子が、先に来ていた明に気付き、からかう内に溺死寸前まで追い込んでしまったり、二人きりの校舎内で女子に襲いかかったりと、刻々と近づく台風という非日常性の中、同じような危険性と狂気を漂わせつつ話は進行する。
たしか・・・宮沢賢治の「風の又三郎」も同様に、暴力と死という要素を濃密に漂わせていた。もしかしたら、こうした狂気や死へとつながる危険性は、少年が大人になるために通過する、狂気と危険性をはらんだイニシエーション(通過儀礼)なのか。
などと、テントの中で台風の音に翻弄されつつ、そんなことを考えているうちに、いつしかウトウトしていたようで、静寂に目が覚めハッとした。時刻は午前3時半。たまにパラパラと雨音と、ババババ・・・と風に鳴るタープの音。やっと峠は超えたのかな、と再び明るくなるまで眠った。
翌13日は、晴天ではないものの、次々とキャンパーがチェックインし、誰も居なかったキャンプ場とは打って変わってとても賑やになった。ボクらは毛無山をハイキングし、午後は野沢温泉。なんだか、いつものキャンプとは別世界を味わい、魂のわだかまりまでスッキリと吹っ飛んでしまったような清々しさ。もしかしたら非日常の台風キャンプで、再生させてもらったのかもしれない。
■スタカ湖キャンプ場
・長野県下高井郡野沢温泉村上ノ平高原
・ 連絡先(7/1~8/31):0269-85-3949
・営業期間(2010年):7月3日(土)~8月29日(日)58日間
・営業時間:9:00~19:00
・公式HPにほんブログ村◆関連記事リンク◆
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テーマ:キャンプスタイル - ジャンル:趣味・実用
最近,晴天より雨の日のキャンプが好きになってきました.もっとも台風の時にはできませんが...
キャンプ場には耳栓を持って行ってます.川や雨の音やもちろん人の騒音がうるさくなった時は愛用してます.でも,危険を察知するという意味で五感が鈍るのは良くないんでしょうけど...
ところで,奥様はキャンプをされたのですか.(笑い)